公開当時にどうしようかなと思いながら見逃してしまった『ベルナデット 最強のファーストレディ』をシネマ神戸 にて鑑賞してきました。
ハードな作品を立て続けに観ていたので、小気味よい映画のリズムがあってとても
楽しめる作品でした。
原題:Bernadette 公開年:2023年 上映時間:92分
監督:レア・ドムナック ( Léa Domenach)
脚本:レア・ドムナック、Clémence Dargent
音楽:Anne-Sophie Versnaeyen 撮影:Elin Kirschfink 美術:Jean-Marc Tran Tan Ba
編集:Christel Dewynter 衣装:カトリーヌ・ルテリエ(Catherine Leterrier)
bernadette-movie.com
映画の始まりは、ジャック・シラクが大統領に初選出されるところから。例えば、アメリカ大統領選挙などを観ていると、その配偶者は全力で大統領候補を応援するし、当選の暁には、その一挙手一投足が何かにつけて報道される訳です。その辺はフランスでも同じと思いますが、1995年当時のフランスでは、当選結果は本人のもの。平たく言えば、内助の功を全うして表に出るなと言われてしまうベルナデット。冒頭の場面、完全にボーイズクラブでしたね。
面白いと感じたのは、大統領選の時点で彼女は県議会の議員なんですね。言ってみればアメリカ大統領夫人が、どこかの州議会議員をやっているようなものでしょうか?シラク氏と知り合ったのも、パリ政治学院でのことなので、もともと政治には強い興味があったはず。だから、映画は話半分(冒頭から、これはフィクションと宣言している)としても我慢のならない事なはず。夫だけならいざ知らず、娘にまで「発言するときはよく気を付けて」なんてご指導されるようでは、憤懣やるかたなし。
とはいえ、本人自身のかせというのか教育のたまものというのか、「一歩控えていようかな」と何となく思ってしまうところ。分る気がします。そんな居場所のない彼女を引き上げてくれる力強い相棒が、ベルナール・ニケ。見かけはさえないし、陰で「ぼんくら」呼ばわりされている人間ですが、広報担当の娘が太鼓判を押して指南役に抜擢するだけあって、その能力の高さに驚くばかり。いわば凸凹コンビによるベルナデット改造計画が、この映画の大きな見せ場と思います。例えば、ベルナデットの人気調査とそのプレゼンをするくだり。実際の仕事でも使えるんじゃないかっていうくらいセンスがいい。結果の端的な説明、特記事項の追加、見やすいレイアウト。手作り感いっぱいのプレゼン資料ですが、あのグラフの色彩がおしゃれ。あと、ナイトクラブに繰り出すシーン、暗いところでサングラスって!という場面ですけど、ニケも結構楽しんでいて、いい味出してます。
忘れてならないのが、自分をないがしろにした人たちへの復讐。きっかけは、自分にされたことではなく、自分の大切なものに対する仕打ちだったというのは指摘したいところ。おそらく自分の事だけなら我慢もしよう(できるのか?)と思っていたかもしれないが、あの大切な亀(名前はマリー・アントワネット)への仕打ちは私も観ていて怒りに震えました。ポスターでも大事に亀をもっているし、折につけ身に着けている亀モチーフのブローチいいですよね。ゆっくりしているようだけど、着実に歩みを進める亀が、ベルナデットのよりどころなんだと思っています。
話をもどして、復讐劇が本当に痛快で、こんな風にできるなら私もやってみたい!
自分を見下す運転手への復讐は、お国柄も相まって笑ってしまうし(本当は笑えない。今ならパワハラで訴えられそう)、陣営を裏切った政敵(サルコジ!)のお追従を徹底的にはねのける態度はあっぱれ。サルコジのすりよりエピソードは結構しつこくて、その結果アッと驚く結末につながるあたり、観る側は結果を知っているだけに、この関係はどう転んでいくのか?とすこしハラハラしながら観ていたのですが、そこをベルナデットの人間的成長に昇華させて話をまとめて、現実世界をうまくファンタジーに持っていく技がすごいなと思って観ていました。
本作は政治がテーマではないけれど、自分の選挙区を視察に行って、地元民と気さくに話すあの様子、垣根が低くていい感じです。自己演出と分かっていても、なんというかお互い対等な人間関係が見えて本当に羨ましい。そうそう、極右政権にNOを突き付けるデモの様子もきっちり映画内に入れてくるあたり、さすがと思ってしまう。ベルナデットの直感という表現にしていたものの、この映画に描かれた後の政治情勢を思えば、卓越した政治センスですよね。
そして、働く女性達へのエールがチャーミング。「市場や農場やそのほかあらゆる場所で能力を発揮しきれずにいる女性」(確かこんな感じだったと思う)って、普通に毎日仕事に通う私を応援しているように感じました。ベルナデットにインタビューをする雑誌記者のエピソードも良かったですね。大統領からみれば取るに足りないようなインタビューでも、「彼女たちは仕事をしに来ているんですよ」と時間押しになっても、そのまま続けるところ、こんな風にサポートしてもらえたらうれしいんじゃないかと感じた場面です。仕事になれてしまって「またか~」なんてやり過ごしがちな、かつて若かった方に強く訴える場面ではないかと思うのです。
監督自身は影響を受けたくなかったということで、シラク家への取材はほとんどしなかったそう。シラク家側もかなり寛大だなと。それを言えば、サルコジはもとより、皮肉屋のドビルバンとか実名ズバリで出てきますが、忖度なしに映画にできるところ、日本でもぜひと思うのですが、難しいかな。
もう一つ是非書いておきたいのがポスター。壁紙と同じ柄のスーツに身を包んで、背景扱いされている彼女が、亀を手に自由を手に入れていく話と勝手に思っています。
ドムナック監督の次回作は『男の皮』 これは、書肆喫茶moriさんが主宰されたクラファンで、原作本がただいま鋭意翻訳中です。次回作もぜひ公開されるよう、期待が膨らみます。