2018年製作 ロシア 107分
公開当時気にはなっていたものの、「これをロードショーで観るのか?」という
不遜な気持ちから見送った作品。二番館(今時こんな言い方しないかも)に降りてきたのでいそいそと鑑賞。
努力のかいあって、トップ選手とペアを組んで人気も出た矢先、主人公のナージャは大怪我を負ってしまう。気落ちしたままの彼女を励まそうと、コーチのイリーナは、出場停止中のホッケー選手を世話役にして、もう一度リンクに復帰させようとする。明るいというより、能天気な彼に救われて奇跡的に回復したものの、さらなる試練にどう立ち向かうのか?というのがあらすじ。
予想通りの展開なので結末に新味はないのだが、予想外だったのはその演出。
まさかフィギュアをテーマにミュージカル風にするとは、なかなかロシア映画も攻めています。ミュージカルというか、インド映画風とでもいうのでしょうか?
例えば、主人公が子供時代に過ごすスケート学校での訓練や生活の描き方は効果的だと思った。つらい訓練、なれない集団生活、意地悪なライバルを順に映すよりは、ミュージカルで短くキリッとまとめるのは良いアイディアだと思った。
その後も同様なシーンが続出で、なぜか男性陣のモノローグは重戦車級ラップだし、ナージャが垣間見る華やかな世界はBTS風ダンスでまとめてある。
意外な展開に戸惑いながらも、結果はある意味予測可能な範囲。そのあたりの配分がうまくて結構楽しめる仕上がりになっている。
映画冒頭で、2003年と出てくるので、当時のペア・スケーターは誰かと少し調べると、ロシアはタチアナ・トトミアニナ&マキシム・マリニン組だったそうです。2002年のトリノ・オリンピックでは4位に入るも、3位だった中国ペアの申雪・趙宏博とは大きく差があり、私自身もトトミアニナ&マリニン組の記憶はありません。しかし、2004-2005年シーズンに、トトミアニナが落下事故から映画さながらの復活を見せ、その後は大活躍とありますので、本映画のモデルといえるでしょうね。
本筋とは関係ないけれど、私が興味深く感じたのは以下四点。
1) バナナはやはりロシアで人気の果物なんですね。ベルリンの壁崩壊(一体いつの話だ!)で東ドイツの多くの人達がバナナを買いたがったというニュースがありましたよね。子供時代のナージャが賄賂代わりに良いバナナを選んであげる場面を見ると、何となく時代背景を感じるのでした。
2)「ホント?」のようなくだけた表現で「プラウダ?」と使うんですね。
「プラウダって真実っていう意味なんだよ」と聞き覚えていただけなので、びっくり。
そりゃ、真実なんだからホントでしょう。話し言葉としてこなれた使い方もできるのが面白いなと思いました。字幕担当者の腕がいいんでしょうね。
3)「ダバーイ」 こちらは、つらく苦しいシベリア抑留がテーマの作品群に必ずと言っていいほど出てきますよね。本作では、子供たちに「早く用意しなさい」とか「早く練習始めなさい」の時に使われていて、お母さんが子供に向かってお小言を言うくらいの感じでしょうか。強制収容所の看守が「ダバーイ」って言えば身もすくむでしょうけど、お母さんなら「あーあ、うっせーなー」だと思うので、ところ変わればなんとやらです。
4)目上の人に対する呼びかけがちょっと独特な気がします。おそらくですけど、かしこまった場面では、フルネームで呼びかけている気がする。コーチのイリーナに対して、そんな呼びかけをしている場面が確かありました。どの場面だっけ?
いずれにせよ気楽に見て楽しむタイプの作品です。後口もさわやかだったのが何より。
監督 オレグ・トロフィム 脚本 アンドレイ・ゾロタレフ オレグ・マロビチュコ
撮影 ミハイル・ミラシン 音楽 アントン・ビリャエフ
出演 アグラヤ・タラーソバ(ナージャ) アレクサンドル・ペトロフ(サーシャ)
ミロシュ・ビコビッチ(レオーノフ) マリア・アロノーバ(イリーナ)