うたたね図書館

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『モダンガール論 女の子には出世の道が二つある』 読了

著者    斎藤 美奈子
出版社    ㈱マガジンハウス
発行者    細川 泉
発行年    2000年12月21日 第一刷
    
米原万里さんの「打ちのめされるようなすごい本」でご紹介の本を端から読んでいく、野望の第二弾。

    
「女の出世」とは何か?おそらく気が付いていても口に出さない「アレとソレ」です。 
古くて新しい、21世紀になっても綿々と続く、「仕事か家庭か」。    
    
本書は、女性の社会進出の歴史を「出世」ととらえ、その根底には「欲望」があると    
仮説を立て、時代を追って検証していくもの。    
「出世」すごろくの上がりは「良妻賢母」か「職業婦人」の二つの道があり、その分岐はどこにあるかを調べていくうちに、20世紀の女性の生き方を歴史的に俯瞰することになったとのこと。    
    
話はそれるが、この本を読む少し前に、映画「バービー」を観ていた。いろいろと外野がうるさかったけれど、厳しい話を、楽しく笑ってまさにハッピーになれる楽しい作品というのが素晴らしい。アメリカ・フェレーラ演ずる、女性にかけられた各種の呪いの数々を独白する場面は、「そうだ、そう言って欲しかった」ということばかり。 
「(女は)きれいでいろ、きれいすぎるな。賢くあれ。ただし男より賢くなるな。 金をもうけてこい、但し夫より稼ぎすぎるな」という相矛盾する呪いに引き裂かれて、自分を見失いそうになるということ。    
    
著者は、「女の出世」すごろくに二つの道があると言ってもあくまで「『男は外/女は内』という性別役割分業社会の上に成立したものである」と述べている。(262ページ8行目より引用) そして、「男も女も頭を切り替えて、システムごと交換しないかぎり、次の展望は開けてこないだろう。そのための道を探ることが、新しい夢になるのかもしれない」(263ページ17行目より引用)と結んでいる。    
    
これって、まさに「バービー」の世界。使い古されているかもしれないけれど、地に足をつけて、自分と向き合う。言葉にすると、何だか10代の青少年向けのアドバイスみたいだけれど、私にはとても大切な考えと感じた。    
特に、雑誌の投書の引用から当時の女性たちの立場や考えを推論し、今に続く問題が浮かび上がっていくあたり、思い切りのいい文体と相まって、まさに目が開く思いがした。    
    
出版年が2000年と、今を去る事四半世紀前(!)なので、21世紀の出世すごろくはどうなっているのだろうか?    
今や「良妻賢母」は職業を持っているのが当たり前だし、職業の選択肢も広がっていると思う。とはいえ、それはおそらく40代くらいまでの人間を想定しているのであって、引退世代の60代になると、今度は隠居か現役かに代わってくるのでしょう。言葉を対立させて書くと、二つに一つとなってしまうけれど、この両者の間には言い表しきれない濃淡がある。 悠々楽隠居か、あくせく働くのか。隠居という名の座敷牢に押し込められるのか。自分のペースで好きなように働くのか。    
 こうなったら、「出世」という言葉自体の意味を問い直したいくらいだ。    

タイトルになっている「モダンガール」は今も形を変えて生き続けていると思う。    
「積極的」とか「ポジティブ」とかを頭に載っけている女性を飾る言葉には要注意だ。   最先端を自任する人たちは、「後ろ向きな姿勢や保守的な態度を嫌う。」(191ページより引用) だから、軍国婦人にもなれば戦後は民主主義を旗印に婦人解放・平和運動なんかに走ってしまう。「『進歩的』な女の人はいつも『新体制』の前で張り切っちゃう」という一文(194ページより引用)は忘れないでおきたい。    
 自分で考えて選択しているつもりでも、筋を通せているかなんて判断できないし、流されないでいられるほど  強くもない人間としては、せめて自分が簡単に転びやすいのだと自覚くらいはしておきたい。

 最終頁に掲載された「戦前戦後の女性の動き・対照表」は必読。2000年以降の事象と対比させるのは一体いつの時代なのでしょうか?もしや映画、「MONDAYS」のように、同じことを何周もループしているだけ?文献案内もついているので、これもブックガイドとして、とりあえず記録しておこう。